始球式でナックルボール投球予告

物語的には来シーズンのホーム開幕の始球式なんだけどさ。
そんなわけで、ボク、高柳茉煕が主役やってるゴローが執筆中のフィクションの物語の中身を、ちょこっと紹介させてもらうね。
縦書きで書いてる原稿をそのまま横書きで出してるから、読みにくいところは勘弁してね。

 

プロローグ(前半)
令和九年三月二十六日、金曜日、午後六時。――「埼玉北条スタジアム」

埼玉北条ドーム。そこはネーミングライツ契約により、「北条」の名を冠したプロ野球の主戦場。そのマウンド上に、|高柳茉煕《たかやなぎ まひろ》は立っていた。
プロ野球公式戦――埼玉王子セネガルス対東北竜王シルバースケールス――その開幕戦の試合に先立ち行われるセレモニーの締めを飾るファーストピッチのためだ。
まばゆいカクテル光線の下、株式会社北条物産入社二年目を迎える彼女がまとうのは、雪白色(スノーホワイト)の球団特製ホーム用ユニフォームだ。
全国ネットのテレビとLビジョンのカメラは、威容を誇る身長百五十二センチの立ち姿に迫る。 ――マウンドに映える鮮赤色のシューズから、乳白色のアンダーストッキングが|馴染《なじ》む足首。 ――同色のホットパンツが標榜する、緊満の美尻から鋭く絞り込まれた腰のライン。 ――そして、ユニフォーム越しに伝わる体幹の力強さと、肩のラインへと至る流麗な曲線。 ――およそ世知辛いコンプライアンスの縛りに厳格なガイドラインの尾根に沿って|舐《な》め上げた。
カメラは、その頂にきらめく球団の誇り高きシアン・ブルーの紋章(エンブレム)を捉えるとすぐさまフェードアウトし、三塁側のカメラに切り替わった。 ――耳元で切り|揃《そろ》えられた清潔なショートヘアと、そこからしなやかに伸びる首筋のアライメントを捉えた。 ――センターバックスクリーンに鎮座する巨大なLビジョンは、いささか緊張に顔がこわばっているとも、|悪戯《いたずら》な笑みを浮かべているともうかがえる彼女の口もとを大きく映し出した。
場内アナウンスの女性が、球団伝統の、あの凛とした語尾に余韻を残す調べで口上を述べた。
「――埼玉王子セネガルスの初陣、そしてシーズン制覇の願いをこめて……。 本日のファーストピッチを務めますのは、勝利の女神、そのひとです」
スタジアムは、水を打ったような静寂に包まれた。
「シーズン九十勝という、伝説の勝率でリーグ優勝を果たした二〇〇二年九月二十一日。 ――まさにその日、午前二時に産声を上げた二十四歳は、白獅子の申し子」
昨年は、オリンピックメダリストが担った大役を今年は何なの? ――冷ややかな雰囲気だったスタンドが、にわかにざわつき始める。
先発野手のメンバーは、それぞれの守備位置から、キャッチボールを交わす軽い肩慣らしを終えて、マウンドの方に注目した。
本塁後方の、キャッチャーズボックスにセネガルスの正捕手・船村悠人(ふなむら・ゆうと)が手入れの行き届いたキャッチャーミットを構え、左バッターボックスには、シルバースケールスのリードオフマン、三郷文哉(さんごう・ふみや)が親しみを込めた眼差しでマウンドを見守る。球界を代表する二人が、開幕戦のファーストピッチに最上級の花を添えた。
――その時、高解像度のカメラが捉えたのは、茉煕が胸の高さまで掲げた左腕、ナックルボールの握りで白球をかざす手先だった。――そのまま人差し指を立て、ストライクゾーンのど真ん中を指し示した。

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